「歩けるようになりたい」だけだと、目標が抽象になりやすく介入もブレます。この記事では、面接で“本人希望”を具体化し、目標文までつなげる質問テンプレ(10分版/20分版)をまとめました。急性期の新人OT向けに書きつつ、回復期・訪問でもそのまま使える形にしています。ゴールは、①主訴を生活目標に変換し、②目標文に落とし、③次回面接につなげることです。

面接で「歩けるようになりたい」が止まるのは3つの壁がある

「歩く」は手段で、本人が本当に欲しいのは“その先の生活”です。止まる理由を先にほどくと、次章の「質問の軸」と「テンプレ」が使いやすくなります。
ゴールが映像になっていない(“どこで何をする”が出ていない)
結論は、主訴が止まる最大の原因は「生活の場面が具体になっていないこと」です。理由は、本人の頭の中に“できた姿”の映像がないと、言葉も出にくいからです。
このときは距離を聞く前に、場所と場面を固定します。たとえば「退院したら、まず自分でやりたい場面はどこですか(トイレ/洗面/玄関など)」のように、生活に寄せると答えが出やすくなります。さらに詰まるなら“一日の流れ”で聞くのが安全です。「朝起きて最初にすることは?」「次にどこへ移動しますか?」と順番で追うと、生活行為が自然に出てきます。
よくある言い換えも置いておきます。
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「歩ける距離は何mですか?」→「どこへ行けたら安心ですか?」
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「目標は何ですか?」→「一番困る“場面”はどこですか?」
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「家では何しますか?」→「家で“自分の担当”はありますか?」
遠慮・あきらめ・気遣いで本音が言語化されない
結論は、本人希望が出ないときは「本音を言っていい雰囲気」がまだ整っていません。理由は、急性期ほど見通しが立ちにくく、遠慮や諦めが先に立つからです。
直球の「本当は何がしたいですか?」は、答えが出ない人ほど固まりやすいです。前置きを変えるだけで通りがよくなります。「退院後の生活を考えると、優先したいことを一緒に整理したいです」と伝え、さらに「今日は答えが出なくても大丈夫です。候補を一緒に選びましょう」と“許可”を出します。
「迷惑をかけたくない」と言う人には、「迷惑」ではなく「安心」を軸にすると本音が出やすいです。「家で一番安心したい場面はどこですか」と聞くと、生活目標に直結しやすくなります。
痛み・疲労・時間制限で深掘りの順番を見失う
結論は、面接が止まるのは“質問の内容”より“順番が崩れること”が多いです。理由は、時間制限が強いほど項目追いになり、主訴の変換が途中で切れやすいからです。
短時間の日ほど「生活のゴールに直結する質問」を先に固定します。全部聞き切れなくても問題ありません。最低限、①場所(どこで)②場面(いつ)③障壁(何が邪魔)だけメモできれば、次回の面接が一気に進みます。終わりに「今日はここまでにします。次は“邪魔している要因”を一緒に詰めましょう」と区切ると、関係も崩れにくいです。
「歩く」を生活目標に変える質問は4つの軸で決まる

主訴を具体化するコツは、質問を増やすより“軸”を揃えることです。ここでは、場所・場面・頻度(距離)/誰と何のため(役割)/障壁の4つで整理します。なおADOCは「やりたい生活行為を選びやすくする支援ツール」で、言葉が出ない人の補助に便利です。
場所・場面・頻度(距離)を具体化して“成功イメージ”を作る聞き方
結論は、まず「どこで・いつ・どれくらい」を埋めると主訴が動きます。理由は、具体が出るほど本人の中の“成功イメージ”が作られ、言語化の材料が増えるからです。
使いやすいのは場面固定の質問です。「病室→トイレと、家に帰ってからだと、どっちが不安ですか」「昼と夜で違いますか」「毎回ですか、たまにですか」。場所が「病棟トイレ」か「自宅トイレ」かで、必要な環境調整も介助量も変わります。疲労が強い日は“場所だけ”でもOKです。
誰と何のため(役割)+障壁(何が邪魔)まで拾って“優先順位”を決める聞き方
結論は、「誰と何のため」と「障壁」を拾うと、本人希望がブレにくくなります。理由は、その人の役割と困りの核心が見えると、優先順位が自然に決まるからです。
質問は少しずつ近づけます。「家で自分が担当していることはありますか」「外に出る目的は通院/買い物/仕事/趣味のどれが近いですか」。COPMは「大事さ(優先度)や満足度を数値で整理する枠組み」で、優先順位づけに役立ちます。最後に障壁を一つ拾います。「痛み/ふらつき/怖さ/体力のどれが一番近いですか」。ここが目標と介入の焦点になります。
初回面接(インテーク・問診)が回る7ブロック質問テンプレと、詰まった時の3つの切り返し

初回面接は「全部聞く」より「迷わず進む」方が深掘れます。ここでは、短時間でも主訴を生活目標へ変換できるレールを用意します。
10分版でも崩れない“最短3ブロック”の質問例文(導入→困りごと→生活目標)
結論は、10分なら「導入→困りごと→生活目標」だけ守れば面接は止まりにくいです。理由は、この順番で“場面固定→変換”まで到達できるからです。
①導入:体調確認+中断OK。「しんどかったら止めます。今いちばん困る場面だけ整理したいです」
②困りごと:場面固定。「歩くことだと、病室→トイレが一番ですか」「昼と夜で違いますか」
③生活目標:変換。「退院後、まず自分でやりたいのはトイレ/洗面/玄関のどれが近いですか」
最後に次回予告を一言入れます。「今日は“夜間トイレ”をゴールにして、邪魔してる要因を次で詰めます」。この一言があると、面接が短くても“つながる面接”になります。
20分版で使える“7ブロック”テンプレ(聴取項目・例文・チェックリスト)
結論は、20分なら“7ブロック”を上から埋めるだけで抜け漏れが減ります。理由は、主訴→生活目標→本人希望→条件(身体・環境)の順に材料が揃うからです。
まずはチェックだけ作っておくと楽です。
□場所 □場面 □頻度 □障壁 □優先度
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主訴の固定:「一番困る場面はどこですか」→「それは毎回ですか」
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生活目標の変換:「家の中でここまで行けたら安心、はどこですか」→「昼と夜で違いますか」
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本人希望の核:「家で担当していることはありますか」→「できると一番うれしいのはどれですか」
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ADL/IADLの現状:ADLは日常生活動作、IADLは手段的日常生活動作です。「トイレ動作は移動/立ち座り/下衣のどこがきついですか」
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全身状態:「痛み・眠気・食欲は動きやすさに影響しますか」
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退院後生活(家族介護力):「家では誰が一緒で、手伝える範囲はどこですか」
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環境(住環境・家屋):「トイレまでの動線に段差や手すりはありますか」
⑥は「日中は誰がいるか」「夜間はどうか」まで聞けると見守り設定が現実的になります。⑦は「夜間照明」「トイレ内の方向転換のしやすさ」まで押さえると、退院指導や訪問にもつながります。
返答が出ない時の切り返し3パターン(選択肢化/具体例提示/過去の成功)
結論は、答えが出ないときほど“答え方”を用意すると前に進みます。理由は、本人の意欲ではなく「言語化の材料不足」が原因のことが多いからです。
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選択肢化:「目的は①トイレ②洗面③病棟内移動④外出、だとどれが近いですか」
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具体例提示:「“夜に一人でトイレ”と“玄関まで”なら、どちらが近いですか」
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過去の成功:「発症前は家の中でどこまで歩けましたか」「楽だった条件はありますか」
沈黙が長い日は、深追いせず「今日はここまででOKです。次回また聞きますね」と区切るのも立派な技です。
面接の言葉を目標文に落とす3ステップで「本人希望」がブレなくなる

面接で出た言葉を“会話のまま”にせず、目標文へ変換できると介入がブレません。SMARTは「測れる形にするための観点」くらいで十分です。

本人の言葉を残しつつ、主語と目的を整える(記録に強い形)
結論は、本人の言葉を残しつつ「主語」と「目的」を足すだけで十分です。理由は、この整形だけで焦点が定まり、チーム共有もしやすくなるからです。
例:本人「歩けるようになりたい」→「退院後に自宅内で安全に歩いてトイレへ行きたい」。本人の言い回しを消さないと合意形成が取りやすく、希望のすれ違いも減ります。
行為・条件・介助量に分けて、1文の目標にする(例文つき)
結論は、目標文は「行為/条件/介助量」の3点で一気に具体になります。理由は、これで“何を・どこで・どれくらいの助けで”が揃うからです。
例:行為=トイレ移動+立位で下衣操作、条件=夜間・自宅動線、介助量=見守り。
目標文:「退院後、夜間も自宅トイレまで移動し、立位での下衣操作を見守りで実施できる」。
介助量の言葉は、見守り/一部介助/全介助のように、チーム内で通じる表現に寄せるとブレません。
評価指標と期限を足して、作業分析・MTDLPまで自然につなげる
結論は、指標と期限を足すと目標が“測れる形”になります。理由は、再評価の基準が揃い、介入の優先順位も決まるからです。
例:「退院までに、夜間トイレ動作(移動〜下衣)を手すり使用で見守り、3回連続で実施できる」。
作業分析は「生活行為を動作要素に分けて詰まりを見つけること」で、目標文が具体だと自然に始まります。MTDLPも「生活行為→必要要素→環境→介助量」の順で整理できれば十分に運用できます。

急性期から訪問まで共通して使える「優先順位の3基準」

テンプレがあっても「今日はどこから?」で迷う日があります。優先順位を3つに絞ると、短時間でもブレにくいです。
安全・退院方向・環境の3点で、聞く順番を迷わない(認知症・高次脳機能障害もここで回収)
結論は、迷ったら「安全→退院方向→環境」の順で聞けば崩れません。理由は、この順番が“今すぐのリスク”と“生活の現実”を先に固められるからです。
①安全:痛み、ふらつき、眠気、夜間状況など“今の動き”に影響する要因を先に確認します。
②退院方向:いつ、どこへ、誰と暮らすかで質問の優先が変わります。自宅ならトイレ動線と見守り体制は早めに。
③環境:段差、手すり、動線距離は目標文の条件に直結します。訪問に入るなら、玄関段差や廊下幅も早めに確認します。
認知症は選択肢化+家族情報で補強し、高次脳機能障害は質問を短く区切って場面固定すると拾いやすいです。「朝起きて最初にすること」から聞くとIADLが出やすくなります。
まとめ:明日の面接でまず試す5つのこと

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主訴は否定せず、“生活の映像”を作る質問へ切り替える
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変換の軸は「場所・場面・頻度」→「誰と何のため」→「障壁」
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10分版は導入→困りごと→生活目標の3ブロックだけ死守する
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返答が出ない時は、選択肢化/具体例提示/過去の成功で止まらない
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目標文は主語と目的→行為・条件・介助量→指標と期限の順で整える
候補が出ない日でも、選択肢化で一つ選べれば十分です。その一つが次の評価と介入の軸になります。まずは次の面接で、この一問から始めてみてください。
「退院したら、まず“自分でやりたい場面”はどこですか?」
一つ具体になれば、目標も介入も回り出します。



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