ICFは学校や研修でしっかり学んだはずなのに、いざ臨床に出ると「どう使えばいいのかわからない」と感じたことはありませんか。評価では意識しているつもりなのに、記録や説明になると急に噛み合わなくなる。その違和感を抱えたまま、なんとなくICFを使っている作業療法士は少なくありません。この記事では、ICFが使えなくなる理由を整理しながら、臨床で無理なく整えていく考え方を解説します。
作業療法でICFが「わかっているのに使えない」状態になる理由

ICFが使えないと感じる背景には、知識不足よりも「ICFをどう捉えているか」という前提の問題があります。多くの場合、ICFは理解しているつもりでも、評価・記録・説明といった実際の業務の中で分断されてしまっています。この章では、作業療法士がICFを学んだあとに陥りやすいズレを整理し、なぜ「わかっているのに使えない」状態が起こるのかを明らかにしていきます。
ICFを分類表として覚えてしまった影響
ICFが使えなくなる大きな要因の一つは、ICFを「項目の一覧」や「分類表」として覚えてしまうことです。学生時代や研修では、心身機能、活動、参加、環境因子といった構成要素を整理して学びます。そのため、ICFを正確に説明できても、それを臨床でどう使うかが結びつかないままになることがあります。
本来のICFは、対象者の生活や状況を多面的に捉えるための“考え方の枠組み”です。しかし分類表として記憶すると、「どこに当てはめるか」を探す作業になりやすく、作業療法士自身の臨床推論が置き去りになってしまいます。その結果、評価や記録の場面でICFを意識しても、形だけ使っている感覚が残りやすくなります。
ICFを使えるようになる第一歩は、項目を埋めることではなく、「この人の生活をどう理解するか」という視点に立ち返ることです。
評価と記録が別物として扱われやすい構造
ICFが噛み合わなく感じるもう一つの理由は、評価と記録が切り離されて扱われやすい点にあります。評価場面ではICFを意識していても、記録を書く段階になると、時間的制約や書式の影響で心身機能中心の表現に戻ってしまうことは少なくありません。
この状態が続くと、作業療法士の頭の中ではICFで整理しているつもりでも、アウトプットとして残る記録はICF的ではなくなります。その結果、「ICFを使っているはずなのに伝わらない」という違和感が生じます。
評価と記録を別物と捉えるのではなく、評価で考えたことをどう記録に落とすかまでを一連の流れとして考えることが、ICFを臨床で活かすうえで重要になります。
臨床のスピード感とICFのズレ
臨床現場では、限られた時間の中で評価・介入・記録を進める必要があります。そのスピード感の中で、ICFを丁寧に整理する余裕がなくなり、「現実的ではない」と感じてしまう作業療法士も多いです。
しかし、ICFが合わないのではなく、ICFを“すべて書き出そう”とすることで負担が増えている場合があります。ICFは毎回網羅的に使うものではなく、必要な視点を選び取るための枠組みです。そこを誤解すると、忙しい臨床ほどICFが遠ざかってしまいます。
ICFを臨床のスピードに合わせて使うためには、「全部使う」から「要点を押さえる」使い方へ切り替える視点が欠かせません。
作業療法におけるICFの本来の役割が見えなくなる瞬間

ICFは本来、心身機能だけでなく、活動や参加、環境因子まで含めて「その人の生活全体」を捉えるための枠組みです。しかし臨床では、その役割が徐々に見えなくなり、評価の一部として形式的に扱われてしまう場面があります。この章では、作業療法士が無意識のうちにICFの視野を狭めてしまう瞬間を整理し、本来の役割がなぜ見えなくなるのかを明らかにしていきます。
心身機能に視点が寄りすぎると起こること
作業療法の臨床では、疼痛、筋力、可動域、認知機能など、心身機能に注目する場面が多くなります。これ自体は重要ですが、ここに視点が寄りすぎると、ICFの枠組みが部分的にしか使われなくなります。
心身機能の変化を丁寧に評価していても、それが生活の中で何に影響しているのかまで結びつかないと、ICFの強みは発揮されません。結果として、評価内容は充実しているのに、作業療法としての方向性が見えにくくなることがあります。
ICFの役割は、心身機能を否定することではなく、その変化が活動や参加にどう関係しているのかを考える視点を補うことにあります。そこが抜け落ちた瞬間、ICFは「使っているつもり」でも機能しなくなります。
活動と参加が言語化できなくなる理由
活動や参加は、ICFの中でも作業療法士が大切にしたい領域です。しかし実際には、これらを具体的な言葉にすることに難しさを感じる人も少なくありません。
その理由の一つは、活動や参加が生活文脈に強く依存しており、評価項目として数値化しにくい点にあります。そのため、記録や説明の場面では、どうしても心身機能の情報が前面に出やすくなります。
活動や参加を言語化するためには、「何ができるか」だけでなく、「どの場面で」「どのような意味をもつか」を意識する必要があります。この視点が抜けると、ICFの中で最も重要な要素が曖昧なままになってしまいます。
環境因子が背景情報で終わってしまう問題
環境因子はICFの構成要素の一つですが、臨床では「参考情報」や「前提条件」として扱われがちです。家屋構造や家族構成、支援体制などを把握していても、それが介入の判断にどう影響しているかまで言語化されないことがあります。
環境因子は、活動や参加を促進も阻害もする重要な要素です。それにもかかわらず、背景情報で止まってしまうと、ICFの視点が十分に活かされません。
作業療法におけるICFの本来の役割は、これらの要素が相互にどう影響し合っているかを考えることにあります。そのつながりが見えなくなったとき、ICFは単なる枠組みに見えてしまいます。
ICFを「評価の枠」から「思考の軸」に変える3つの視点

ICFを臨床で使いこなすためには、評価表として当てはめる発想から離れ、「どう考えるための枠組みか」という視点に切り替える必要があります。この章では、作業療法士がICFを思考の軸として使うために意識したい3つの視点を整理し、評価や介入の考え方がどう変わるのかを具体的に示していきます。
作業療法士が最初に見るべきICFの入口
ICFを思考の軸として使う際、最初に意識したいのは「どこから見るか」です。多くの場合、評価は心身機能から始まりがちですが、必ずしもそこが唯一の入口ではありません。
作業療法では、対象者が「どのような生活を送りたいのか」「何に困っているのか」といった視点から考え始めることが重要です。活動や参加の困りごとを起点にし、その背景として心身機能や環境因子を整理していくと、ICFは自然に臨床推論と結びつきます。
入口を変えるだけで、ICFは評価項目の羅列ではなく、対象者理解のための道筋として機能し始めます。
作業と参加をつなぐ問いの立て方
ICFを使っても噛み合わなくなる原因の一つは、作業と参加をどう結びつけるかが曖昧なまま進んでしまう点にあります。ここで重要になるのが、「問い」の立て方です。
例えば、「この動作ができない理由は何か」だけでなく、「この人にとってこの作業がどんな意味をもつのか」「参加を妨げている要因は何か」といった問いを立てることで、視点が広がります。
問いが具体的になるほど、活動と参加の関係性が見えやすくなり、ICFは単なる分類ではなく、考えるための道具として機能します。
ICFを使った仮説思考の組み立て方
ICFは、評価結果を整理するためだけのものではなく、仮説を立てるための枠組みとしても有効です。活動や参加の制限が見られるとき、「どの要素が影響しているのか」をICFの視点で整理することで、介入の方向性が明確になります。
仮説思考では、すべてを網羅する必要はありません。心身機能、活動、参加、環境因子の中から、今の課題に関係が深い要素を選び取り、相互の関係を考えていきます。
このようにICFを使うことで、評価と介入が一本の線でつながり、作業療法士としての判断に一貫性が生まれます。
記録と説明でICFが噛み合い始める整理のしかた

ICFを理解していても、記録や説明の場面で噛み合わないと感じる背景には、「ICFをどう書くか」に意識が向きすぎていることがあります。この章では、ICFを無理に記載しなくても、その考え方を自然に反映させる整理のしかたを解説し、記録と説明がつながり始める感覚を整理します。
ICFをそのまま書かなくていい理由
ICFを使うと聞くと、「ICFの項目を記録に反映しなければならない」と考えてしまいがちです。しかし実際には、ICFの用語や分類名をそのまま書く必要はありません。
重要なのは、ICFの枠組みを使って考えた内容が、対象者の状況として伝わることです。ICFの言葉を並べても、読み手に伝わらなければ意味はありません。作業療法の記録では、生活の中で何が起きているのか、その因果関係が読み取れることが求められます。
ICFは記録の「型」ではなく、考えを整理するための裏側の道具として使う方が、結果的に伝わりやすい記録になります。
記録に落とすときの視点の順番
記録を書く際にICFが噛み合わなくなる原因の一つは、視点の順番が整理されていないことです。心身機能から書き始めるのか、生活場面から書くのかで、記録の印象は大きく変わります。
作業療法では、「どんな生活上の困りごとがあるのか」から入り、その背景として心身機能や環境因子に触れる流れが自然です。この順番を意識するだけで、ICFの視点が記録に反映されやすくなります。
視点の順番を整えることは、ICFを使った思考をそのまま文章に落とすことにつながります。
他職種に伝わるICF的な説明の組み方
ICFを意識した説明が伝わらないと感じるとき、その原因は専門用語や構造にあります。他職種にとって重要なのは、分類名ではなく、「なぜその判断に至ったのか」という流れです。
ICF的な説明では、活動や参加の課題を起点にし、そこに影響している心身機能や環境因子を簡潔に整理します。この形で説明すると、他職種にも状況がイメージしやすくなります。
ICFを前面に出すのではなく、考え方として背景に置くことで、説明はむしろシンプルになります。
作業療法士1〜5年目がICFと付き合い直す意味

ICFに対して「わからない」「噛み合わない」と感じる時期は、決して遠回りではありません。むしろ、作業療法士としての臨床経験が積み重なり、ICFを知識としてではなく、実践と結びつけようとしている証拠でもあります。この章では、ICFと付き合い直すことが、なぜ1〜5年目の作業療法士にとって意味をもつのかを整理します。
作業療法士として経験を重ねる中で、ICFは一度「使えないもの」に見えることがあります。それは、学生時代に学んだ理論と、現場で求められる判断との間にギャップが生まれるためです。このギャップに直面することで、ICFを表面的に使う段階から、自分の思考を整理する道具として再構築する必要が出てきます。
ICFと付き合い直す過程では、正解を探すよりも、「どう考えたか」を言語化する力が育ちます。評価・記録・説明が一本につながるようになると、ICFは特別な枠組みではなく、日常的な臨床思考の一部になります。この変化は、作業療法士としての軸を整える大きな転機になります。
まとめ

この記事のポイント
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ICFが使えないと感じる原因は、理解不足ではなく捉え方にある
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ICFを分類表として扱うと、臨床推論と切り離されやすくなる
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活動・参加・環境因子を意識した視点が、作業療法らしさを支える
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ICFは記録に書くものではなく、考えを整理するための軸として使う
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ICFと付き合い直す経験は、作業療法士1〜5年目の成長過程に欠かせない
総括
ICFは、正しく使おうとするほど難しく感じることがあります。しかし、ICFを「書くもの」から「考えるための軸」へと捉え直すことで、評価・記録・説明は自然につながり始めます。臨床で感じている違和感を大切にしながら、ICFを自分なりの思考の道具として整えていくことが、作業療法士としての判断力を育てていきます。



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