休みの日なのに、街で歩いている人の歩き方が気になったり、会話の中から無意識に相手の状態を考えてしまったり。作業療法士として働いていると、仕事の癖が私生活にまで染み出る瞬間があります。これは多くの現役OTが抱える、ちょっとした「あるある」です。
作業療法士が日常で無意識にやってしまう3つの職業病
作業療法士としての視点は、臨床現場だけでなく日常生活にも自然と持ち込まれます。意識していなくても体や心、環境に目が向いてしまうのは、専門職として積み重ねてきた経験の表れです。この章では、現役OTが「あるある」と感じやすい職業病を整理し、その正体を言語化します。
歩き方や立ち上がり動作を見て、頭の中で勝手に運動分析している
街中や職場以外の場面でも、歩行や立ち上がり動作が目に入ると、つい重心移動や支持基底面を追ってしまうことがあります。意図して分析しているわけではなく、視界に入った瞬間に体が反応する感覚に近いでしょう。これは日々の臨床で、動作を評価し続けてきた結果です。問題なのは、分析してしまうこと自体ではありません。オンとオフの切り替えがないまま続くことで、頭が休まらなくなる点にあります。気づいた時点で一度視線を外すなど、小さな区切りを作る意識が役立ちます。
会話の端々から、相手の心理状態や背景を考えてしまう
何気ない雑談の中でも、言葉の選び方や声のトーンから相手の状態を推測してしまうことがあります。沈黙の理由や感情の揺れを考える癖は、OTとして人と深く関わってきた証拠です。一方で、プライベートの場面までその視点を持ち込むと、純粋に会話を楽しめなくなることもあります。すべてを理解しようとしなくても、相手の言葉をそのまま受け取るだけで十分な場面も多いはずです。分析を手放す選択肢を持つことで、心の余白が生まれます。
「この環境、ちょっと変えたら楽なのに」と生活場面で思ってしまう
家具の配置や動線を見て、改善案が浮かぶのもOTならではです。安全性や効率を考える視点は、生活支援に直結する大切な能力です。ただ、常に最適解を探していると、自分が休む側に回れなくなります。気づいたことを実行に移すかどうかは、場面によって選んで構いません。頭に浮かんだ工夫を「考えただけ」で終わらせることも、一つのセルフケアです。役立つ視点と休む視点を使い分ける意識が重要になります。
あるあるだと分かっていても地味に消耗する3つの瞬間
一つひとつは小さく見えても、積み重なることで確実に疲労につながります。作業療法士としての視点が自然に働くからこそ起こる消耗であり、意志の弱さや性格の問題ではありません。この章では、現役OTが抱えやすい「地味な疲れ」の正体を整理します。
休みの日なのに頭が完全にオフにならない
休日であっても、外出先やテレビを見ている最中に、無意識に評価目線が働くことがあります。これは脳が仕事の回路に慣れ切っている状態とも言えます。問題は、休んでいるつもりでも回復が追いつかなくなる点です。頭がオフにならない日が続くと、疲労感だけが残りやすくなります。完全に切り替えようとするより、「今は仕事じゃない」と言葉にして区切るだけでも、負担は軽くなります。
家族や友人との会話で“仕事スイッチ”が入ってしまう
身近な人の悩みを聞いたとき、つい専門職としての視点で整理したくなることがあります。助けたい気持ちが強いほど、無意識にアドバイスモードへ入ってしまいがちです。ただ、相手が求めているのは解決策ではなく、共感だけの場合も多くあります。仕事としての関わりと、私的な関係は役割が異なります。聞き役に徹する選択ができると、人間関係の疲れは減っていきます。
自分のことは後回しになりがちな思考パターン
普段から他人の生活や状態を優先して考えるため、自分の不調や疲れに気づくのが遅れやすくなります。これは責任感の強さゆえに起こりやすい傾向です。ただし、自分を後回しにしたままでは、長く現場に立ち続けることは難しくなります。体調や気分を振り返る時間を意識的に持つことは、甘えではありません。仕事を続けるための基盤として必要な視点です。
その“あるある”が生まれる理由はOTの強みでもある
日常での“あるある”は、単なる癖ではなく、作業療法士として培ってきた専門性の延長線上にあります。この章では、なぜこうした行動が自然に起こるのかを整理し、否定する必要のない理由を明らかにします。
作業療法士は「人と生活」を丸ごと見る仕事だから
作業療法士の支援対象は、動作や症状だけではありません。その人がどのような生活を送り、どんな背景を持っているのかまで含めて考える仕事です。その視点があるからこそ、環境や関係性にも自然と目が向きます。日常で同じ視点が働くのは、仕事を丁寧に続けてきた結果と言えます。生活を丸ごと捉える力は、OTの大きな強みです。
観察力と仮説思考が日常レベルまで染み込んでいる
臨床では、限られた情報から仮説を立て、関わりを調整する場面が多くあります。この積み重ねにより、観察と推測が無意識の反応として定着します。意識的に使っている感覚がなくても、頭の中では自然と整理が進みます。それは能力が高まっている証拠であり、決して悪いことではありません。問題になるのは、休む場面でも同じ負荷がかかり続けることです。
無意識の分析は、真剣に向き合ってきた証拠でもある
分析してしまう自分に対して、真面目すぎると感じる人もいます。しかし、それは利用者一人ひとりに真剣に向き合ってきた結果です。手を抜いていれば、こうした癖は身につきません。これまでの積み重ねを否定する必要はありません。大切なのは、強みとして認識したうえで、使う場面を選べるようになることです。
疲れやすくなるOTが意識しておきたい3つの境界線
作業療法士としての視点は大切な強みですが、常にフル稼働させる必要はありません。この章では、強みを失わずに疲れを減らすための「境界線」の引き方を整理します。無理に変わるのではなく、使い分けることがポイントです。
「分析しない時間」を意図的につくるという考え方
分析が自然に始まってしまう場合、完全にやめようとするとかえってストレスになります。そこで有効なのが、分析しない時間をあらかじめ決めておく方法です。散歩中や食事中など、目的を「休む」に限定するだけでも違いが出ます。分析しない時間は、能力を落とす行為ではありません。回復のための準備時間と捉えることで、罪悪感を持たずに休めます。
仕事としての視点と、一人の人としての感覚を分ける
仕事では評価や仮説が求められますが、私生活では必ずしも必要ではありません。今はどちらの立場で関わっているのかを、言葉で区別する意識が役立ちます。「これは仕事ではない」と一度整理するだけで、頭の使い方が変わります。役割を分けることで、必要なときに専門性を発揮しやすくなります。
気づいても“処理しない”という選択肢を持つ
何かに気づいた瞬間、対応や解決まで考えてしまうのはOTあるあるです。ただ、すべてを処理する必要はありません。気づいたまま流す、という選択も十分に有効です。行動に移すかどうかを選べるようになると、消耗は大きく減ります。視点を持つことと、背負うことは別物です。
あるあるを否定しないことで、明日が少し楽になる
これまで見てきた“あるある”は、直すべき欠点ではありません。作業療法士として積み重ねてきた経験の一部です。この章では、それらを否定せずに受け止めることで、日々の負担を軽くする視点を整理します。
やめられない自分を責めなくていい理由
分析してしまう癖は、努力して身につけたものです。簡単に切り替えられないのは当然であり、意志の問題ではありません。無理に変えようとすると、かえって疲労感が増します。まずは「そういう反応が出る仕事をしてきた」と認めることが大切です。自分を責めるエネルギーを減らすだけでも、気持ちは軽くなります。
同じように感じているOTは想像以上に多い
表では淡々としていても、同じような感覚を抱えているOTは少なくありません。職場やSNSで言語化されにくいだけで、多くの人が共通の悩みを持っています。自分だけがおかしいわけではないと分かると、視点が変わります。共有されにくい悩みほど、抱え込まない意識が重要です。
「それでもいい」と思える余白が現場を支える
完璧に切り替えられなくても問題ありません。分析してしまう自分を含めて受け入れることで、心に余白が生まれます。その余白があるからこそ、現場で踏ん張れます。力を抜くことは、仕事への責任を放棄することではありません。長く続けるための現実的な選択です。
まとめ
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作業療法士は日常生活の中でも、無意識に運動や心理、環境を分析してしまいやすい
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その癖は小さな消耗を生みやすいが、性格ではなく職業特性によるもの
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“あるある”が生まれる背景には、OTとして培ってきた観察力と仮説思考がある
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強みを失わずに疲れを減らすには、視点の使い分けや境界線が役立つ
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分析してしまう自分を否定せず、余白を持つことが長く現場に立つ支えになる
作業療法士として身につけてきた視点は、簡単に手放せるものではありません。無理に変えようとするより、使いどころを選ぶ意識を持つことで、日常の負担は軽くなります。今日から少しだけ、自分のための余白を意識してみてください。



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