作業療法の定義は知っているのに、理学療法との違いを明確に説明できない。
その違和感は、知識不足ではなく「定義の捉え方」に原因があります。
この記事では、公式定義とICFの視点から、作業療法が何を目指す専門職なのかを整理し、現場判断につながる考え方を解説します。
作業療法の定義が「わかりにくい」と感じてしまう3つの理由

作業療法の定義に違和感を覚えるのは、個人の理解力や経験不足が原因ではありません。
むしろ、多くのOTが同じ地点で立ち止まります。この章では、なぜ定義がわかりにくく感じられるのかを構造的に整理し、その違和感が自然なものだと確認していきます。
定義に出てくる「作業」という言葉が抽象的すぎる
作業療法の定義が腑に落ちにくい最大の理由は、「作業」という言葉の幅広さにあります。
作業と聞くと、手工芸や訓練課題を思い浮かべがちですが、実際には食事・更衣・仕事・余暇・役割など、生活そのものを含みます。しかし、この前提が共有されていないと、定義文はどうしても抽象的に見えてしまいます。
現場では具体的な評価や介入をしているにもかかわらず、定義文では包括的な表現が使われるため、両者が結びつきにくくなるのです。
法律・協会・学校で表現が微妙に違って見える
作業療法の定義は一つではありません。
法律、日本作業療法士協会、教育機関などで示される表現には微妙な違いがあります。内容の方向性は共通しているものの、言葉選びや強調点が異なるため、読み手によっては別物のように感じられます。
OT1〜5年目の段階では、これらを整理する余裕がなく、「結局どれが正しいのか」と迷いやすくなります。この混乱が、定義への苦手意識を強める要因になります。
現場でやっていることと文章が結びつきにくい
現場では、対象者の生活背景を考え、評価し、関係性を築きながら介入しています。
一方で、定義文はそれらのプロセスを抽象化した結果だけを示しています。そのため、「自分がやっていることが定義に当てはまっているのか」が見えにくくなります。
これはズレではなく、視点の違いです。定義は俯瞰、現場は具体という前提を理解しない限り、両者は噛み合いません。
公式に示されている作業療法の定義を一度整理すると見えること

作業療法の定義は複数存在しますが、方向性がバラバラなわけではありません。
むしろ、それぞれが異なる立場から同じ本質を表現しています。この章では、日本作業療法士協会の定義を軸に、ICFの考え方を重ねながら整理し、定義同士のつながりを明確にします。
日本作業療法士協会が示す作業療法の定義
日本作業療法士協会では、作業療法を「人々がその人らしい生活を送るために、作業を用いて支援する専門職」と位置づけています。
ここで重要なのは、治療手段よりも「生活」や「その人らしさ」が前面に出ている点です。作業は目的ではなく手段であり、最終的なゴールは生活の再構築にあります。
この視点に立つと、訓練内容が何であれ、生活とのつながりを意識しているかどうかが作業療法の軸になります。
WHO・ICFの考え方から見た作業療法の位置づけ
ICFでは、人の健康状態を「心身機能」「活動」「参加」の相互作用として捉えます。
作業療法は、この中でも特に「活動」と「参加」に深く関わる専門職です。単に動作ができるかではなく、その人が社会や生活の中で役割を果たせているかに目を向けます。
ICFの枠組みを通すことで、作業療法が機能訓練に留まらない理由が明確になります。
定義に共通して流れている「一貫した目的」
法律、協会、ICFと表現は違っても、共通しているのは「生活を成立させること」を目指している点です。
機能改善は重要ですが、それ自体がゴールではありません。作業療法の定義は一貫して、生活の中で意味のある行為が再び行える状態を目指しています。
この目的を押さえることで、複数の定義が一本の線として理解できるようになります。
作業療法と理学療法の違いが腑に落ちる3つの視点

作業療法と理学療法の違いは、技術や対象疾患の違いだけでは説明しきれません。
両者は目指している地点そのものが異なります。この章では、ICFの視点を用いながら、OTとPTの役割の違いを構造的に整理します。
理学療法が「機能」を主に扱う理由
理学療法は、歩行や立ち上がりなどの基本動作を支える身体機能の改善を主な目的としています。
筋力や関節可動域、姿勢といった要素を整えることで、動作の安定性や安全性を高めます。
これはICFでいう「心身機能・身体構造」に重点を置いた関わりです。生活全体を支えるための土台を整える役割を担っていると言えます。
作業療法が「生活」や「役割」を扱う理由
作業療法は、動作ができるようになった先の「どう生活するか」に焦点を当てます。
食事、仕事、家事、余暇など、その人が意味を感じる活動を通して、生活の再構築を支援します。
ICFの枠組みでは「活動」や「参加」が中心となり、環境や価値観も含めて評価する点が特徴です。
同じリハビリでもゴール設定がどう違うのか
同じ対象者に関わっていても、PTとOTではゴール設定が異なります。
PTは「安全に歩ける状態」を目指し、OTは「その歩行が生活の中でどう使われるか」を考えます。
どちらが正しいという話ではなく、視点の違いです。この違いを理解することで、作業療法の立ち位置がより明確になります。
現場での関わりから考えると作業療法の定義はこう変換できる

ここまでで整理してきた定義やICFの考え方は、現場での関わりを通して初めて意味を持ちます。
この章では、日々の評価や介入を振り返りながら、作業療法の定義を「使える言葉」に変換していきます。
評価・介入・関係づくりが一本の線でつながる
作業療法では、評価と介入、そして対象者との関係づくりが分断されません。
初期評価の段階から、生活背景や価値観、これまでの役割に目を向け、その情報を介入に反映します。
この一連の流れは、単なる手順ではなく、生活を再構築するための連続した判断です。定義で示される「作業を用いる支援」は、まさにこのプロセス全体を指しています。
「できるようにする」だけでは終わらない支援
作業療法は、動作が可能になること自体をゴールにはしません。
仮に動作が改善しても、それが生活の中で使われなければ意味を持ちにくいからです。
そのため、環境調整や道具選択、関わり方の工夫を通して、「その人の生活に根づく形」を重視します。この視点が、定義と現場をつなぐ重要なポイントになります。
作業療法士が判断している本当のポイント
OTが現場で常に判断しているのは、「この関わりが生活につながるかどうか」です。
評価結果や訓練内容よりも、その先にある生活の変化を見据えています。
この判断軸を意識すると、作業療法の定義は抽象的な文章ではなく、日々の意思決定を支える基準として機能するようになります。
立場が違っても使える作業療法の定義の伝え方

作業療法の定義は、相手の立場によって伝え方を変える必要があります。
定義そのものは同じでも、言葉の選び方や強調点を調整することで、理解度と納得感は大きく変わります。この章では、OT1〜5年目が実際に使いやすい説明の考え方を整理します。
学生・進路検討中の人に説明する場合
学生や進路検討中の人には、「作業=生活そのもの」という視点を最初に伝えることが重要です。
訓練内容の具体例から入ると、作業療法が限定的な技術職に見えてしまいます。
そのため、「その人らしい生活を取り戻すために、生活の中の行為を使って支援する仕事」といった形で、目的から説明すると理解されやすくなります。
患者・家族に説明する場合
患者や家族に対しては、専門用語を避け、安心につながる説明が求められます。
「できるようにする訓練」ではなく、「今の生活を少しでも楽に続けるための関わり」であることを伝えると、納得されやすくなります。
作業療法の定義を噛み砕き、生活の変化をイメージできる言葉に置き換えることが大切です。
他職種に説明する場合
他職種に対しては、役割の違いを明確にすることがポイントです。
PTや看護師が担う機能・安全面の支援に対し、OTは生活場面での使われ方や役割に焦点を当てます。
ICFの「活動」「参加」をキーワードに説明すると、専門性の違いが伝わりやすくなります。
作業療法の定義を理解すると迷いが減る理由

作業療法の定義を改めて整理すると、日々の迷いの正体が見えてきます。
多くのOTが感じる違和感は、「できていない」からではなく、「判断の軸が言語化されていない」ことから生まれます。
定義とICFの考え方を理解すると、評価・介入・関係づくりが同じ方向を向いているかを確認できるようになります。
その結果、訓練内容に自信を持てるようになり、他職種や患者への説明にも一貫性が生まれます。
作業療法の定義は、暗記するための文章ではなく、現場で立ち返るための基準として機能します。
まとめ

この記事のポイント
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作業療法の定義がわかりにくいのは、抽象度と視点の違いによるもの
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日本作業療法士協会の定義は「生活」と「その人らしさ」を軸にしている
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ICFの「活動」「参加」は作業療法の立ち位置を明確にする
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作業療法と理学療法の違いは、機能か生活かというゴール設定の差
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定義を理解すると、現場での判断や説明に迷いにくくなる
総括
作業療法の定義を自分の言葉で捉え直すことは、OTとしての軸を整えることにつながります。
迷いを感じたときこそ、定義とICFに立ち返り、今の関わりが生活につながっているかを確認してみてください。



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